テラ塾 第1クール「お寺でアートを考える(気づきの回復)」 レポート


今年の2月から3月にかけて、空蓮房(蔵前・長應院内)とアートクラブの共同プロジェクトである「テラ塾」 の第1クールを開催しました。

長應院の本堂を会場に、全3回に渡って行われたテラ塾のプログラムは、呼吸法を学び心身を整え、長應院の住職である谷口昌良さんによる声明を聞き、写経や歩行瞑想の体験をし、それに続いて谷口昌良さんによる基調となるお話を聞き、参加者の皆さんの発話とともに、気楽に、そして、ざっくばらんに考える場となりました。

座学に終始することなく、五感をフルに使って仏教哲学のこと学び、そしてアートと仏教哲学の接続を試みながら、参加者の皆さんが日常生活において“気づき”のきっかけを増していけるような学びの機会でした。

全3回のレポートを写真とともにお届けします。


仏教入門編ともいえるセッション1 では、仏教哲学とはどういうものか、その概論について谷口さんがお話してくださいました。

声明を聞き、住職が叩く木魚のリズムに合わせて般若心経を皆で一緒に声に出して読むこと、また写経を行うことで、仏教の教えのなかで説かれていることを「身体」を通して体験していきます。

住職・谷口さんがホワイトボードに書いた言葉(セッション1)

住職の奥様であり、ヨガのインストラクターもされている谷口まみさんは、ヨガで実践される心身のあり方から心の整え方をレクチャーして下さいました。

瞑想や呼吸法を通して雑念を解放し、五感へと意識を向けていく行いが、心の観察(かんざつ)へ繋がることを学びます。

谷口まみさんによる「呼吸法」の実践

セッション2の谷口さんのお話は、セッション1で学んだ仏教哲学のお話をベースに、さらに仏教哲学で扱われる「心」に焦点を当てていきました。

仏教に「縁起論」という考え方があり、万物は因果(原因と結果)によってできているという認識から、世の中は「思うようにならない」もの、「恒常するものはない」ものであると捉えます。

世の中は因果の流れのなかにあるとすると、留まるものはない=実体がないといえます。

こういった考えは「空の思想」「空論」と呼ぶことができますが、実体がないということは、今私たちが目の前に見て、認識しているものは何なのでしょうか?

ここからセッション3の「仏教」と「アート」の関係性へと谷口さんのお話が展開していきます。

住職・谷口さんがホワイトボードに書いた言葉(セッション2)

アート鑑賞は言葉以外の「感覚」を育むという側面があります。

また、作家が制作に向ける姿勢や態度、さらには制作と地続きにある日常の行いなど、作家自身へと踏み込んで目を向けてみることで、仏教における「心の観察」を実践することについて考えてみました。

例えば、禅僧である白隠慧鶴が自らの境地を知らせるために描いた数々の作品や、円相をよく描いた吉原治良さんをはじめとした具体派やもの派について、また、現代では奈良美智さんを引用しながらお話が展開されました。

アートを自身の日常のなかにも落とし込み、作品やアーティストに触れる度に心の観察をすることで、あらゆる「気づき」に出会います。

この「気づき」と日々多く出会うことが仏教哲学で説かれる心のあり方に近づくための鍛錬となっていくようです。

セッション3では、これまで行った写経を奉納して浄めた後、お守りを袋の中に詰める体験もします。

仏教で実践される基本的なことに触れながら、本堂で過ごした時間を振り返りつつ最後は参加された皆さんと住職を交えたディスカッションも行われました。

[セッション1]

「五感を意識する」
1、住職挨拶、今回の趣旨
2、「声明を聴く」
3、読経「心経」ゆっくり皆と読む
4、写経「心経」
5、「呼吸法1」
6、お話「仏教について」
7、座談会
8、「呼吸法2」
9、懇親会

[セッション2]

「空論とは」
1、「声明を聴く」
2、読経「心経」
3、写経
4、「呼吸法1」
5、お話「般若心経について」
6、座談会
7、「呼吸法2」
8、懇親会

[セッション3]

「仏教と気づきとアート」
1、「声明」
2、読経「心経」
3、写経を奉納する、御守りに詰める
4、「呼吸法1」
5、お話「仏教とアート」
6、座談会
7、「呼吸法2」
8、懇親会


谷口昌良
長應院住職。空蓮房房主。写真家。
作品集に『写真少年』シリーズ、写真家・畠山直哉との共著書に『仏教と写真』(赤々舎刊)、最新作に谷口の写真に詩人・石田瑞穂の書き下ろし詩作の入った詩画集『空を掴め』がある。

疾駆のブログでは、谷口さんの写真家としての歩みについてのインタビューも掲載しています。