最近の3つ(くらい) 関川航平

Yutaka Kikutake Galleryのアーティストたちに近況の報告日記をお願いするシリーズ。
第7回目は、現在開催中の展覧会「至るところで 心を集めよ 立っていよ」に参加されている関川航平さんです。
読んだ本、聞いた音楽、美味しかった食べ物、そして、作品制作のこと。それぞれ多くて3つくらい、ご紹介します。

『しあわせな日々』(部分) 2022|イチジクの鉢植え、ステンレス、グラファイト、パフォーマンス
『強く移動する』2018|パフォーマンス photo by Katsuhiro Ichikawa Courtesy of SPIRAL/Wacoal Art Center

最近読んだ本

・『自転車の教科書』堂城賢
大学時代に買ったクロスバイクを長いことほったらかしていたのですが、最近になってメンテナンスをして、ふたたび乗るようになりました。
そんな時に見つけた自転車の乗り方についての教本。背中を曲げて足の力でペダルを踏むのではなく、おじぎするように腰から身体を倒して前荷重の状態をつくり、その上半身の体重を足を通じてペダルに伝達するように漕ぐ「おじぎ乗り」という乗り方を推奨しています。
読んでいる間の脳内では「たしかに!こうすれば体重がペダルに伝わるぞ!」と理想的なイメージがふくらんで気持ちいいのですが、実際に自転車に乗ってみると、すぐに背中を丸めて足の力でギコギコ漕いでしまいます。

・『ヨコハマ買い出し紀行』芦奈野ひとし
とてもゆっくりとした読みごごちの漫画。近未来の関東地方が舞台で、ひと昔前から続く海面上昇によってかつて栄えていた街の多くは水没し、残された土地に住む人々は、作中では「夕凪の時代」と呼ばれる人類の黄昏時のような時間を過ごしているという設定。
SFの塩梅が絶妙で、基本的には穏やかな日常生活が描かれているのですが、ふとした瞬間に作中世界に横たわる不思議の一部が垣間見えて、そのバランスが心地よい読みごごちになっています。
主人公がいつも乗っている原付をはじめとして、(多くはエンジンを載せた)乗り物がたくさん出てくるのも作者のフェティシズムを感じられて良いです。

・『個人空間の誕生―食卓・家屋・劇場・世界』イーフー・トゥアン
「個」という自意識の発生と空間的な分節化がどのような相互関係を持っているのかを、(主にヨーロッパと中国の)食卓におけるマナーの変遷・階級差と住空間の対応関係・劇場空間の設計と鑑賞体験の変容、などの具体例を参照しながら検証していく、地理学者イーフー・トゥアンの本。
これまで自分がリズムや語彙という観点から考えていた「分割と統合」という考えが、それを考えること自体が、一体どこに向かうものなのかわからなかったのですが、この本のなかで「個と空間」という切り口からドンピシャに言及されていて、読み進めるなかで何度も「まさにこれだよ!」と感極まっては、おもわず本を閉じて天を仰ぎました。
イーフー・トゥアンの本を読んでいると、自分のやりたかったことは現代地理学なのでは…という気になってきます。

『Topophilia』 2021|紙、鉛筆、上顎智歯(左右) photo by Ken Kato

聞いている音楽

・深夜ラジオ
家ではお笑いのラジオばかり聞いています。(オードリー、ハライチ、アルコ&ピース、三四郎、などなど)
少し前にワイヤレスヘッドフォンを買ったので、料理・洗濯・掃除など、あらゆることをラジオを聞きながらするようになりました。

・Too Many Zooz「I Will Survive」(Gloria Gaynorのカバー)
Leo P(Too Many Zoozのバリトンサックスプレイヤー)のことが好きで、たまたま見つけたyoutubeの動画です。
街を歩きながら演奏するメンバーの姿を撮っているだけのシンプルなMVですが、こうして街を歩くこと、息を吸って吐いて管楽器を鳴らすこと、タイトルの「I Will Survive」、それらが2022年という時節に行われていることによって、色々な気持ちを呼び起こされました。

美味しかったもの

・ノンアルコールビール
ノンアルコールビールに対してこれまでは「ビールの代わりに渋々飲むもの」という認識でいて、積極的に飲みたいと思ったことはなかったのですが、ある日ほんの気の迷いで買ってみたところ、その「なんでもなさ」が、その時の気持ちに最高にフィットしました。
決してビールの代わりでもなく、その他の炭酸飲料の代わりでもない、「ノンアルコールビールが飲みたい」という新しい需要が自分のなかに生まれたことに驚きました。

面白いできごと

家の土間のコンクリートの隙間から生えてきた名前のわからない植物が、垂直に伸びに伸びて、真上に位置していた郵便受けにぶつかったと思ったら、今度はその底面を這うように水平に伸び進み、郵便受けによってできた日陰部分を抜けて、ふたたび垂直に伸びていった様子。
基本はほったらかしでしたが、あまりに日照りが続くと水をやったりして、ほんのりと応援していました。

(郵便受けにぶつかる植物)
『歌につれ』 (部分)2019|積木

作品制作のこと

ここ最近はずっと「水平/垂直」という状態が気にかかっています。ただ、そこに何を見ているのか今ひとつ掴み切れていません。
特にこの2年間くらいは「正岡子規は”水平”だった」という考えがずっと頭にあって、これはいつか何かになれば良いなと思っていますが、その実践の場はいわゆる「作品」ではないのかもしれません。
美術における「リサーチして作品をつくる」ことや「作品のモチーフ」という考えにあまり馴染みがなく、もしかしたらそれよりも、在り方としては音楽における「主題」のような抽象度のほうがしっくりくるような気がしています。

『今日』2020|パフォーマンス photo by Masanobu Nishino

アーティストについて

関川航平さんは、1990年宮城県生まれ。2013年筑波大学芸術専門学群特別カリキュラム版画コース卒業。パフォーマンスやインスタレーションなど様々なアプローチを通じて作品を介して起こる意味の伝達について考察している。
近年の主な個展・グループ展に「あざみ野コンテンポラリーvol.11 関川航平 今日」(横浜市民ギャラリーあざみ野、2020)、「THEY DO NOT UNDERSTAND EACH OTHER」(大館美術館、香港、 2020)、「開館40周年記念展 トラベラー:まだ見ぬ地を踏むために」(国立国際美術館、大阪、2019)など。
作家HP