はじめてインスタグラムで現代美術のアーティストである奈良美智をフォローしたとき、私のヒーローである彼が、今までずっとSNSにいたということが信じられなかった。目の前に突然、奈良さんとのあいだに橋が見えたようで、奈良さんに直接メッセージを送ることができるのだという事実にドキドキして、ワクワクした。2020年の1月のこと、私は部屋のなかで一人で過ごしていて、失うものなど何もないのだと覚悟を決め、ダイレクトメッセージを送った。
奇跡みたいに雪の降るその夜、なんてことのないメッセージが交わされ、それはやがてプロフェッショナルな関係へと繋がり、そして、クリエイティブな友情が生まれることになる。
まさに青天の霹靂のようだった。奈良さんが実際に私のメッセージに対して返信をしてくれるなんて夢にも思わず、クイーンの歌詞がひたすら私の頭の中を駆け巡った。
“これは本当の現実? それともファンタジー? (Is this the real life? Is this just fantasy?)”
けれども、現実はさらに非現実味を増していったのだ。
友好的にメッセージのやりとりを続けていたその年の秋、奈良さんは私を東京にあるYutaka Kikutake Galleryでのグループ展に参加しないかと誘ってくれた。彼とギャラリーオーナーである菊竹さんがインスタグラムを通して私の作品を見てくれて、それが展覧会のテーマである「YOUTH」にあうのではないかと考えてくれたようだ。奈良さんは、彼の素晴らしいアシスタントである濱田智子さんを紹介してくれて、その後展覧会に関するやりとりを続けていくことになった。
そこからの数ヶ月、当初のワクワクはしだいに不安へと変わっていった。このような機会に対する自分の力不足や自分は相応しくないのではないかという葛藤―奈良さんが私を同じ土俵に上げられる人物と思ってくれていることがそもそも間違いではないのか? 何の前振りもなく突然、私は新しい作品を制作できなくなってしまった。
奈良さんとのコミュニケーションを続けていくうちに、最初の頃にテキストを送りながら感じていたどこか現実味のない畏敬は、だんだんと形を持ったものに変わっていった。彼はもう私の頭のなかでの「奈良美智」ではなく、一人の友人になっていた。彼をただセレブリティだと祭り上げることは、奈良さんの人間性や私自身の気持ちを見過ごすことになると気がついた。
長いあいだ、彼は私のなかで黄金の椅子に座っている存在だった。それが今では一緒に仕事をして、私は自分自身もその椅子に座るための努力をしなければいけないのだと思った。けれど、途方もないプレッシャーと現実的ではない比較を繰り返すなか、いったいどうすればそんな偉大なところへと到達できるのだろうか―私が制作できなくなってしまった原因は、自分に自信を失くしてしまったからだったのだ。
自己肯定は、自分の成長とともに、前に進む手助けをしてくれる。一度自分の不安の原因を突き止めてからは、私は頭のなかの黄金の椅子を打ち壊し、このような素晴らしい機会をもらえたことへの感謝を心の底から感じて、再び制作へと向かえた。
現在、“Youth(仮)”は東京のYutaka Kikutake Galleryで開催されており、マスクを着用した数人が一度に入場し、私、奈良さん、そして中原正夫さん、上村洋一さん、谷口正造さんなどの素敵な作家が心血を注いだ作品が生み出すとても親密な世界観を体験している。
“Youth(仮)”を経て、私の人生は大きく変わったと思っている。奈良さん、菊竹さん、濱田さん、展示に参加した作家の方々、そして準備に関わっていた全ての皆さんの謙虚さ、優しさ、そして聡明さが私に教えてくれたことは、作家としての自分を他者と比べ、才能や知性に関する目には見えないヒエラルキーにこだわることは無意味だ、ということ。彼らのおかげで私は他者や自分自身を競争心によってではなく、より現実的に、そして愛情をもって見ることができるようになった。そして奈良さんの作家としての素晴らしさ、偉大さは、どのようにキャンバスに絵具を重ねるかだけではなく、若い作家のためにきっかけを作ってくれたり、全く知らない人ともコラボレーションをしたり、全身全霊で彼らの共通点や違いを肯定してくれるところでもある。一生忘れることはない大事な教訓を得られたことを、関わってくれた皆さんに本当に感謝している。
こう締めくくりたい。特に、自分が不適当であると感じたことのある人に向けて:天才ばかりが集まるステージから、恐怖心や羞恥心によって自分の身を隠す事はない。自分の才能に自信を持ち、それに伴う愛情、評価、承認などが自分には相応しくないなどと思ってはいけない。誰しもが、自分が好きな人の側にいて、憧れの人と友達になり、ヒーローの隣りに立つ権利を持っている。
ナタリー・ホーバーグ
初出 “The Talon” from Onteora High School
和訳協力 田中尚子
When I first followed the artist Yoshitomo Nara on Instagram, I couldn’t believe that he, my hero, had been on social media all this time. A bridge was suddenly visible between us, and the prospect of being able to directly message him was as intimidating as it was thrilling. It was January of 2020 and sitting alone in my room, realizing I had nothing to lose, I decided to reach out.
On that miraculous snowy night, a casual correspondence which would morph into a professional relationship, and even a creative friendship, was born.
I felt star-struck, in disbelief that he would actually ever respond to my messages. Queen lyrics ran through my head again and again: Is this the real life? Is this just fantasy?
Yet life grew more surreal.
That autumn, after some months of friendly back-and- forth, Nara invited me to participate in a group exhibition at the Yutaka Kikutake Gallery in Tokyo, Japan. He and Yutaka, the gallery director, had looked through my art style on Instagram and felt it would tie in nicely with the show’s theme of youth. He put me in contact with his wonderful assistant Satoko Hamada and from there we began communication about the exhibition.
In the months that followed, excitement shifted into anxiety. I felt inadequate in the face of such an opportunity, undeserving and regretful—as though Nara had made a mistake in considering me to be anything near an equal. Without warning, I suddenly stopped being able to produce any new art.
As I continued correspondence with Nara, the initial, somewhat superficial awe I felt every time we texted morphed into something more wholesome. He was no longer just an idea in my mind, but my friend. To reduce Nara to simply a celebrity, I grasped, was to overlook his humanity and lose my own sense of self.
For so long, I had placed him on a golden pedestal. Now that I was working alongside him, I thought I had to prove I belonged on that pedestal too. But how could I ever amount to this construct of greatness when it’s very basis was built upon unfathomable amounts of pressure and unrealistic comparison? I couldn’t make any art because in the recesses of my brain, I didn’t think I was good enough to.
The thing about self-awareness is that it finally allows you to move forward with personal growth. Once I recognized where my anxieties were coming from, I was able to smash the golden pedestal, simply feel thankful for my unbelievable luck to even be in the show, and finally create.
Today, YOUTH (temporary) resides in the Yutaka Kikutake Gallery in Tokyo, where only a couple of masked visitors may enter at a time to experience the intimate world that I, Nara, and the brilliant artists Shozo Taniguchi, Yoichi Camimura, and Masao Nakahara poured our hearts into.
Working on YOUTH (temporary) has sincerely changed my life. Nara, Yutaka, Satoko, all the artists in the show, and every other person who was involved in the process, through their humility, graciousness, and immense wisdom, showed me that obsessing over where you rank in the invisible hierarchy of talent or intellect is pointless. They led me to truly see others and myself in a more realistic, loving rather than comparative lens. Furthermore, I now understand that the true genius of Nara is not only in how he lays paint on canvas, but in the way he opens doors for young artists, collaborates with complete strangers, and embraces their similarities and differences wholeheartedly. My thanks to them for these lessons are infinite and everlasting.
To anyone who has ever dealt with feelings of inadequacy, I’d like to end with this: There is no higher plane inhabited by geniuses that you should hide from out of fear or embarrassment. Own your talents and don’t ever think you’re undeserving of the love or validation or recognition that comes with them.
You have every right to be around people you admire, to befriend your idols, and to stand alongside your heroes.
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