かれこれ4年か5年前のこと。アーティストの田幡浩一さんの展覧会をギャラリーで開催したくて、田幡さんの住むベルリンに会いに行った。11月のベルリンはそれはもうとても寒かった。(ぼくはとりわけ寒さに弱く、冷えるとすぐお腹が痛み、風邪ひきます。帰国の日に熱をだし帰りのフライトはほぼ失神。)
3泊ほどのベルリン滞在中、美術館やギャラリーをはじめ、本屋や蚤の市、それに美味しいレストランやワインバー、キャロットケーキの美味しかったカフェなど、田幡さんが色々なところを案内してくれた。街の様子についても田幡さんのアーティストならではの独特の視線とともに聞かせてもらい、ベルリンの姿を興味深くも面白く体感することできて、ふと思い出すと色々可笑しい。
ところで、ベルリンは「石を投げればアーティストに当たる」と言われるほどアーティストがたくさんいるそうだ(誰にそう聞いたかも忘れたし、実際のところも知らないながら、そんな噂が立つような場所に東京もなって欲しい)。ギャラリーもアパートの一室にあることも多く、外玄関でビビーっとブザーを鳴らして入場、さらに部屋の前で再びブザーを押す。すると、スタッフの方が笑顔で出迎えてくれ、「なにか質問でもあれば気軽に聞いてね」というそんな場所もたくさん。
「ギャラリーって入りづらい」「ちょっと無愛想だし、みんなパソコンに向かって何してるんですか?」と言われがちなギャラリーとは大違いで、東京に帰ったら真似してみたいと切に思った(その後の自分の実践具合に点数を付けるとすると、70点くらいかもしれないけれど…)。
街を歩きながらふと足元を見ると、道には日本では見慣れない落ち葉もたくさん落ちている。田幡さんはきっといつもそうしているのだろうという様子で、口数も少めに淡々と、ひたすら歩いていく。膨大な数の落ち葉を拾い集めて写真に撮り、そこからコラージュ作品(“untiled (fallen leaves)”)を制作したり、スーパーで売られているフルーツのカゴの様子を大量に撮りためて映像作品(”soon ripe soon rotten”)を制作したり。生活の息吹がやがて作品に吹き込まれていく、そんな一端を垣間見たようで、それはとても楽しい時間だった。
いざ、田幡さんが日々暮らし、制作を行っている部屋にお邪魔したときのこと。中庭に面した窓から柔らかな陽射しが入り込むリビングに入ると、そこには一気に「絵画」が溢れていた。
ドローイングや油彩、スケッチなどがあちこちに掛けられ、棚には作品に登場することもあるのだろう花瓶やオブジェが並べられている。そして、ひとつひとつ異なる手法で作られた作品をよくよく眺めると、その背後から、印象派の画家やセザンヌ、キュビズムへ続く画家、シュルレアリストたちが、こっちをギロっと見てくるよう。彼らの試みを経て、今の時代にあって「どうやって絵画を生み出せるのか」という田幡さんの迫力が、繊細なのに力強く、どんどん迫ってくるようだった。
田幡さんの作品は、極めてシンプルな手段(当然ものすごい画力に裏打ちされている)で、そうした絵画の歴史への挑戦をさらっと成し遂げているのも魅力のひとつ。(詳しくは是非、下にリンクを貼っている哲学者・千葉雅也さんの文章、ギャラリーで販売中の作品集にある兼平彦太郎さん、中尾拓哉さんのテキスト、ついでにぼくの文章なんても…ご参照を。)
なにより、カフェでお茶をしていたときのこと―「ずっと考えていながら、こういう場所でぼうっとしていると絵をずらしてみようと思いついたりするんですよ」と話すそのときの田幡さんのハニカミと信念が混ざったように感じたその表情が、ぼくは何より忘れられない。
菊竹
田幡浩一さんの個展「牛乳のある風景」開催中です。会期は1月16日まで!
Yutaka Kikutake Gallery にて
詳細はこちら
千葉雅也さんによるテキスト・『意味がない無意味』(河出書房新社刊)所収
https://masayachiba.tumblr.com/day/2016/02/29
拙稿
https://tree.threecosmetics.com/2019/02/see-behave-06/
「B面」第一回はこちらより(次回はなるべく間髪入れず投稿します。)
https://chic-magazine.jp/blog/8649/
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