つづくねっこシリーズ②「続いてく日々の日記」 井尻貴子

2026.3.23 

日本に戻ってきた。
ダンボール3つに、スーツケース1つ、キャリーケース2つ、ボストンバッグ2つ、リュックが3つ。
寄せ集めて2年間をぎゅっと詰め込んで、入りきらない分は捨てて、捨てまくって荷造りをした。
使いかけの小麦粉、ドレッシング、ジャム。捨ててきたものが胸に残る。
自分の計画性のなさにうんざりしながら、仕方ない、と言い聞かせた。

ハワイに2年住んでいた。と言っても、何度か日本にも帰ってきていたから、行ったりきたりしていた、というほうが近いかもしれない。

言葉はどこから来るの?
ハワイに引越したばかりの頃、子が言った。
子は、近くの公立小学校に通いはじめたばかりだった。
突然、一日中、英語の環境に放りこまれた。にもかかわらず、まわりに助けてもらいながら、楽しくやっている。すごい。

ハワイでは、ジャンケンポーて言うんだよ。
学校に通いはじめてしばらくして、子が言った。

そうなの?知らなかった、と私が言うと、ちょっと嬉しそうにした。

ハワイの生活のなかで出会う言葉には、日本語がたまに顔をのぞかせる。

スパムむすびは、人気スナックのひとつだし、スシも人気だ。ベントーも売っている。

その昔、そこにいただろう日本人、それから中国、南洋諸島、ポルトガル、ドイツ、ノルウェー、スペイン、プエルトリコ、朝鮮半島…たくさんの国から来た人たちのことを思う。それから、そこの地にいた人たちのことも。
いろいろありながらも、大変な思いをしながらも、とにもかくにも生活していく。そうやって、日々を生きた人たちが、言葉を、食べ物を、すべてを、つくってきたんだと思う。

その道がずっと続いて、きっと私の足元にある。

言葉はどこに行くんだろう?
どこかから来たなら、どこかに行くんだろうかと思う。

子は、シックスセーブンと言って、イヒヒと笑う。
日本で暮らす友達たちには通じず、ポカンとされている。
違う遊びがはじまって、ジャンケンをする。
ジャンケンポン!

そして、私たちは、また引越しを予定している。
2週間後、まだ馴染みのない土地で暮らしはじめる。
どんな言葉が待っているんだろう。
引越しまで、新しい調味料は買わないようにしようと思う。


プロフィール
井尻貴子
NPO 法人こども哲学おとな哲学アーダコーダ副代表理事。
2007年頃、哲学カフェに出会う。以来、参加者や進行役として、学校や公民館、街中のカフェ、美術館、オンラインなど様々な場所で大人やこどもと日々、哲学している。2024年4月より2026年3月までハワイ在住。5日ほど前に日本に戻ってきた。